ティーチャーズサミット@グリーンパワー大学2014 フォトリポート

ティーチャーズサミット@グリーンパワー大学2014 フォトリポート

gp-tokyouniv 2014年度のグリーンパワースクールの活動の集大成として、2014年12月20日(土)ー21日(日)に行われた「グリーンパワー大学」の一つのプログラムとして「ティーチャーズサミット@東京大学」を開催しました。全国から意欲的な先生たちや再生可能エネルギー教育に関心のある方が集まり、お互いの活動を共有し、これからの再エネ教育について活発なディスカッションが行われました。その時の様子をレポートします!

今回のティーチャーズサミットで掲げたテーマは「再生可能エネルギーと地域の学びをどうつなぐか」でした。それぞれの地域の特徴を活かした教育の在り方を参加者のみなさんと探りました。
_AAA0019s進行役は『グリーンパワーブック』編集長の上田壮一が担当。当日は教育関係の方も含め30人以上の参加者が集まった

まず最初に、京都教育大学の山下宏文教授の「エネルギー環境教育」についてのお話から、ティーチャーズサミットは始まりました。

エネルギー環境教育は『エネルギー問題』に着目する教育の必要性から登場しました。混乱を避けるため、理科でエネルギーを扱う場合をエネルギー教育、環境問題として扱う場合をエネルギー環境教育と分けて呼んでいた時期もあります。山下教授は「エネルギー環境教育の最終的な目標は、将来エネルギーを選択できることになった際に、市民として適切な議論ができるように知識や知見を持つことです」と話されました。
_AAA0105sエネルギー環境教育の必要性について語る山下教授

「学校教育が国民のエネルギー選択に対して、適切な知識や情報提供をする責務がある、という考え方が必要です。国がエネルギー選択の主体者ではなく、国民がエネルギー選択の主体者だということを教育のなかで大切にすべき」とも話してくれました。

国民のエネルギー選択という点では、イギリス、アメリカ、スウェーデンなど日本より海外の方が進んでいるそうです。いずれ日本でもエネルギー自由化の時代が到来します。国民が主体となってどのようなエネルギーを選ぶか、という議論が必要になったときに、適切な議論ができる子どもを育てていこう、というのがエネルギー環境教育の重要なテーマなのです。これは子どもだけではなく、大人にも必要な教育ではないでしょうか。

山下教授のお話の後は、『グリーンパワーブック』を活用し授業を行なった六人の先生たちから、それぞれに工夫を凝らした授業内容が紹介されました。簡単にですが、ひとつずつ紹介していきます。

事例1 発電キットを使った授業 さいたま市立道祖土小学校

さいたま市立道祖土小学校の横須賀篤教諭は「授業で大切なことは、子どもが自分でなぜこれをやる必要があるか理解すること」と言います。そこでペットボトルを使ったアーテック社の安価な風力発電キットを活用し、子どもたちに発電の仕組みを教える授業を組み立てました。この授業は私も見学させていただきましたが、子どもたちは自分の手を動かしてキットを組み立てることで、頭だけでなく自分の体験として、エネルギーを身近に感じることができていました。
_AAA0164s横須賀教諭。ペットボトルを使って発電を学べるキットと『グリーンパワーブック』を利用して、再生可能エネルギーの授業を実施した

事例2 福島との交流授業 長野県須坂市立森上小学校

長野県須坂市立森上小学校の服部直幸教諭は、インターネットで福島の小学校とつないだ交流授業を実施しました。ご自身が東日本大震災の現場に行かれた経験をリアルな言葉で子どもたちに伝えつつも、あくまで中立な立場を保ち、再生可能エネルギーと原子力発電、どちらのメリット・デメリットについても教えます。授業の最後に、今後日本はどんなエネルギー資源を使って発電を行っていけばよいのか、福島の子どもたちと意見を交換することによって、長野に住む子どもたちもエネルギーのことを「自分ごと」として考えるきっかけをつくり出すことに成功しました。
_AAA0193s服部教諭。教師一年目にして、福島と長野の子どもたちが意見交換する素晴らしい授業を立案し、実施までこぎつけた

事例3 エネルギー教育と地域を結ぶ試み 真庭市立落合中学校

岡山県真庭市の谷本薫彦教諭はグリーンパワーの五つのキャラクター(サンちゃん、ミズリン、バイオン、風子、ちね蔵)の総選挙を行うことで再生可能エネルギーのアピールポイントを子どもたちに発表させ、再生可能エネルギーの理解を深める授業を実施しました。選挙前後に総理大臣になってエネルギーバランスを決めるという課題を出しましたが、総選挙の前と後では子どもたちから出た回答は全く違ったと言います。

谷本教諭は「真庭市はバイオマスタウンとして大人は頑張っているけれど、そのことを子どもたちはほとんど知らない」と話します。再エネに積極的に取り組んでいる地域ですら、地域のエネルギー産業と学校をつなげることは難しいのです。そんな中で、谷本教諭は真庭市ならではの授業プランを考え続けてくれています。今後の活動に期待大!です。
_AAA0300s谷本教諭。まわりの先生や地域の人を巻き込んだ再生可能エネルギーの授業プランを模索している

事例4 多世代交流×地域×グリーンパワー 学童保育ネクスファ 

柏市にある学童保育ネクスファの杉浦正吾さんは、グリーンパワースクールとの協働で「グリーンパワーの素(もと)さがし」というプログラムを開発し実施しました。杉浦さんの活動の最大の特徴は地域のシニアの活用です。企業を退職した技術者の方などがサブ・ファシリテーターとして子どもたちのグループに入り、アイデア出しを促したり、子どもとシニアが対等に発表する場面を作ったりするなど、随所に多世代交流が活発になる工夫がされたプログラムでした。杉浦さんも「子どもとシニアが同じテーブルで再生可能エネルギーを考えること自体が楽しく、世代による意見の違いが共有できる貴重な場だった」と話してくれました。
_AAA0370sネクスファの杉浦氏。学校ではなかなか実現できない、学童保育ならではの温かな遊びと学びの実践を紹介

事例5  発電事業者による出張授業 スパークスグループ

クリエイティブディレクターの島本直尚氏は全国で再生可能エネルギー発電事業を手がけるスパークスグループが行っている「こどもエネルギーサミット」の活動を紹介しました。

「こどもエネルギーサミット」では、まずはじめに子どもたちが近隣にできたメガソーラー発電所を見学。その後、体育館全体を使ってクイズ等を使った楽しい座学や、遊びながら発電するオリジナルの装置を使った、まるで運動会のような楽しい授業が行われています。企業が資金を出すことによってクリエイティビティが高い授業が実現していました。
_AAA0371s島本直尚氏。企業による出張授業を、クリエイティブの力でクオリティが高く子どもたちにとっても楽しいイベントに変貌させた

事例6 モチベーションが最重要ポイント 東京学芸大学附属世田谷小学校

子どもたちのモチベーションに注目して教育実践を行っている東京学芸大学附属世田谷小学校の沼田晶弘教諭は、関心が無い子どもを最終的に高い学習意欲を持った状態に導くために「アナザーゴール方式」を提案しています。

「再生可能エネルギーの知識を教えようとしても、子どもたちは誰も興味がないし、ついてきません」

そこで、本来教えたいこととは違うアナザーゴール(=発表して他のチームに勝つ!など)を設定することで結果的にそのテーマについて深く学ぶ、という教育手法を披露しました。谷本教諭が実施した「再エネキャラクター総選挙」という授業も沼田先生のアイデアです。この本質的な言葉と、それをひっくり返す発想方法に、参加した先生方はみんな強い刺激を受けていました。
_AAA0395s沼田教諭。2014年度は通販会社の千趣会と「ハハとコのグリーンパワー教室」と題して日本中で再エネをテーマとした出張授業を実施。この授業のアナザーゴールは「再エネのCMを作ろう!」

教材紹介+ワークショップ

最後に、「グリーンパワー工作キット」にも協力いただいた教材メーカー、アーテック社の石室綾子さんから、教材会社として再生可能エネルギー教育にどう取り組むか、工作キットの紹介も交えたプレゼンテーションがありました。
_AAA0427s石室氏。アーテックは日本を代表する教材メーカー。数々のアイデア溢れる教材を開発・提供している

先生たちのプレゼンテーションがすべて終了したあとは、参加者も交えたワークショップ。「地域と再エネ教育を結ぶ」というテーマに対して思いついたアイデアや提言、感じたことをキーワード化し、近くの人たちと小グループを作って共有・対話する時間を持ちました。
_AAA0503s谷本教諭を中心にそれぞれの地域の課題と、自分たちができる行動について話をする参加者
_AAA0502s自分が考えたテーマやキーワードをシェアすることで、新しい発見が生まれる
_AAA0575s最後は、登壇者全員で、各自が考えたキーワードを発表
_AAA0576s杉浦氏のキーワードは「ちがう問題」。エネルギー問題は他の社会課題とは違う問題であるということをしっかり意識し、対策を考えたいと話す

エネルギー問題はエネルギーのことだけ考えていても解決になりません。教育、経済、地域特性など他の視点と合わせて考えることで、はじめて実践的な解決策がみえてきます。再生可能エネルギーと地域をつなぐ教育の在り方を考えることは簡単ではありません。それは、そもそもエネルギー問題に関心がなかったり、再生可能エネルギーの可能性を知らなかったり、様々な理由があります。しかし、今後確実にエネルギー問題と向きあう時代がやってきます。その時に、「どうなっていくのだろう?」と受け身じゃなくて、「どうして行くべきだろう?」とみんなが考えられることが大切だと、強く思いました。その第一歩として、今回参加者みなさんが一人ひとり違ったキーワードを考え、共有したことの意味は大きかったと思いました。

難しい課題もまだまだたくさんありますが、今後もグリーンパワースクールとして再生可能エネルギー教育を盛り上げていけるような活動を続けていきたいと思います。

(リポート:グリーンパワースクール事務局 笹尾実和子)